腹式呼吸の思い込み|よくある4つの誤解を解説

毎日のように、たくさん吸う練習も姿勢の練習も続けてきた。
それでも歌うと息が足りなくなり、お腹から声が出ている手応えもつかめない。
そんな悩みを抱えていないでしょうか。
うまくいかない原因は、練習の量とは別のところにあるのかもしれません。
この記事では、腹式呼吸をめぐってよく生じる4つの誤解を、ひとつずつ見ていきます。

誤解① たくさん吸うほど良い

「息はたくさん吸わなければいけない」——これは思い込みです。
そもそも腹式呼吸は、たっぷり吸い込むための呼吸法として存在しているわけではありません。
なぜなら息を吸うことを目的にした呼吸は胸式呼吸であり、腹式呼吸は吐く息をコントロールすることを目的にした呼吸法だからです。
たくさん吸おうとする時点で、腹式呼吸の本来の目的から外れてしまいます。
そのため、たくさん吸おうとするほど胸や肩が上がり、かえって浅い呼吸になります。
反対に、しっかり吐けていれば、その後は自然に必要な息が肺に入ってきます。
これは人間が本来持っている防衛本能です。
正しい腹式呼吸ができていれば、たくさん吸おうとしなくても、必要な息は自然に入ってきます。

息が足りなくなる悩みと肺活量のつながりについては、息が続かないのは肺活量と関係があるのか?で解説しています。

誤解② 背筋をまっすぐ伸ばすべき

実は、背筋をまっすぐ伸ばすことと腹式呼吸のあいだに、直接のつながりはありません。
腹式呼吸で欠かせないのは、下腹部や体の背面が自由に動けることです。
ところが背筋をピンと伸ばそうとすると、体が固まってしまいます。
その結果、この動きが止まります。
つまり背筋をピンとするほど、腹式呼吸はできなくなります。
良い姿勢を作ろうとする意識そのものが、腹式呼吸の習得を遠ざけてしまいます。
それどころか、かえって喉に余計な力を入れる原因にもなるのです。
必要なのは姿勢を固めることではなく、体が自由に動ける状態を保つことです。

誤解③ 息は強く吐けば良い

「強く吐けばそれで良い」という発想には、抜け落ちている視点があります。
もちろん、息を力強く使うこと自体は必要です。
しかし、そこで終わってはいけません。
本当に大事なのは、その力強い息を持続的に使うことです。
なぜなら、どれほど力強い息であっても、一瞬で出し切ってしまえば歌にならないからです。
では、力強い息はどのように持続するのでしょうか。
力強い息を生み出すのは、下腹部です。
一方で、その息を持続させるよう働きかけるのが、体の背面、つまり横隔膜です。
下腹部と横隔膜、この二つが働くことで、力強い息が最後まで続きます。
つまり、目指すべきは強く息を吐くことではありません。
力強い息を持続的に使えるようになること、これが重要です。

誤解④ 腹式呼吸は筋トレと同じ

筋トレのような感覚で取り組んでも、腹式呼吸は身につきません。
求められるのは、筋肉の強さよりもしなやかさです。
下腹部も横隔膜も、力を入れる場面と抜く場面があります。
この緊張と弛緩を幅広く使えることが、力強い息を持続させます。
ところが、鍛えて固くすると、この緊張と弛緩の幅が失われます。
筋肉を強くしようとするほど、かえって腹式呼吸から遠ざかってしまいます。
ここで筋トレと比べてみます。
筋トレは筋肥大が目的で、追い込んだら休ませます。
一方、声の筋肉が目指すのは筋肥大ではなく、ヨガやダンスのようなしなやかさです。
だからこそ、追い込んで休むのではなく、疲れない程度に毎日行うことで、しなやかな筋肉へ育っていきます。
つまり腹式呼吸は、筋トレ感覚で鍛えて強くするものではありません。
力を入れる・抜くを自由に使い分けられる、柔軟性のある状態に育てていくものなのです。

練習の量と上達の関係については、毎日練習しても上達しない・・・問題は「量」ではなく「何を繰り返すか」で紹介しています。

まとめ

ここまでの4つの誤解に共通していたのは、たくさん吸う・固める・強く吐く・鍛えるという、いずれも「力を足す」発想でした。
しかし腹式呼吸の目的は、力強い息を持続的に使えるようになることです。
力を足すほど体は固まり、その持続から離れていきます。
つまり必要なのは、強さを足すことではありません。
柔軟性を育てていくことです。

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